耐震基準は一般的に認知されているのが「昭和56年5月31日以前(以下、旧耐震基準)か、昭和56年6月1日~平成12年5月31日(以下、新耐震基準)かの建物」で、昭和56年6月1日を境に安全・危険という認識がされているようにも思えます。国の耐震改修の補助金の条件としても旧耐震基準の建物が一般的には対象となっています。
確かに旧耐震基準と新耐震基準で比べると被害の大きさも全く異なってきます。しかしながら、新耐震基準の建物が必ずしも安全であるとは言いきれません。
- 新耐震基準で何が変わったの?
- 新耐震基準は安全じゃないの?
- 新耐震基準の建物は震度いくらまで耐えられる?
新耐震基準では震度〇の地震に耐えられるように設計
S56年6月1日以降の新耐震基準では以下の①~④の事が規定、改定されました。
①壁量規定が見直された(S56年6月)
②筋交いだけでなく、構造用合板や石膏ボードなどの面材も耐力壁として追加された(S56年6月)
③床面積あたりの必要壁長さ、軸組みの種類、壁倍率が見直された(S56年6月)
④柱頭柱脚金物など、接合金物の“奨励”された(H7年)
以上のように昭和56年6月に大きく耐震基準が見直されています。
また、地震の想定としては震度6~7の地震で倒壊・崩壊しないレベル、耐えられるレベルとされています。
この頃に建てられた建物は安全だという認識がありますが、現上記にも書いた通り、この頃には“金物”と“壁の配置バランス”が考えられていませんでした。
H12年以前の新耐震基準の住宅は、壁の量は足りていますがバランスが悪い建物が数多くあり、金物も取り付けられていない住宅が沢山残っています。ですので、一概には地震に耐えられるような安全と言えるような年代ではないのです。
そのことから大阪市では平成12年5月31日以前の新耐震基準の建物にも耐震化補助を出すようにされています。恐らく今後、大阪市だけでなく、他の市も大阪市の基準に合わせてくるでしょうが、それがいつになるかは分かっていません。
- H12年5月31日以前の新耐震基準の建物は壁のバランスが悪く、柱頭柱脚金物も弱い
現行(H12年6月1日以降)の建物
H12年6月1日以降の法改正では以下の①~③の事が定められました。
①地盤調査が義務化、地盤の強さに応じて基礎構造が規定された(H12年)
②柱脚柱脚金物の仕様が明確にされた(H12年)
③耐力壁の配置計画にバランス計算が必要となった(H12年)
現行の耐震基準で重要となる“金物”、そして“バランス”がようやく制定されたのが平成12年6月の法改正時です。
現行の耐震基準ギリギリでは震度7の地震には耐えられない
耐震補強工事の耐震基準としては「評点」というものが用いられ、評点1.0以上が「一応倒壊しないレベル」で国の基準となっています。
新築の耐震基準では「等級」という言葉が用いられ、等級1が国の基準であり、等級3が耐震等級1の1.5倍の強さがあるとされています。
2004~2006年にかけて行われた「耐震等級1をギリギリ超えている住宅」と「耐震等級3」でどれくらいの違いがあるか、どのように壊れるかを「E-ディフェンス」で実験されました。(非公開で行われた実験であるため、写真はあくまでも実験のイメージです。)
この実験で分かったことは耐震等級1であっても、基準ギリギリでは阪神淡路大震災クラスの地震では地震に耐えられず、倒壊する可能性があるということです。耐震等級3の実験体は僅かな「変形」で耐えられましたが、耐震等級ギリギリ1の実験体は柱がくの字に折れ、倒壊寸前でした。
この実験では外壁や内壁が施工されておらず、耐力壁のみで構成されていたため、実際はもう少し変形は抑えられるとはいえ、耐震等級ギリギリ1の住宅は耐力壁だけでは巨大地震い耐えられないという結果を残しました。
耐震補強工事においても補助金を利用する為に、評点1.0というギリギリを狙うのではなく、大幅に超えるようにした方が安心であることは言うまでもありません。
評点1.5まで上げれば震度7の地震に耐えられる
2005年に耐震補強をしている家と、補強していない家を比較し、耐震補強の効果を確認する為にE-ディフェンスで実験が行われました。耐震補強をしている家は評点が1.5(倒壊しないレベル)まで補強がされていました。
この2つの実験体に震度7の地震動を加えると、右の写真のように耐震補強していない家は1階が倒壊し、耐震補強をしている家は変形するだけで倒壊までは至りませんでした。この実験によって評点を1.5まであげることで震度7クラスの地震に耐えられることがわかりました。
誤解しないために説明しておくと、熊本地震のように震度7クラスの地震が2階もくれば、この補強した家でも倒壊していた可能性も大いにあります。耐震補強の考え方は「人の命を守る」ことであり、「家が大破しない事」、「住み続けられること」ではありません。巨大地震が来ても人が生存することができるスペースを確保する、避難する時間を稼ぐことに重きを置いています。
1階が倒壊して圧死するリスクを軽減するためにも、耐震補強工事は最低でも評点1.0以上、可能な限り1.5以上を目指すようにすることを強くお勧めします。
巨大地震に家は耐えられるのか
下のグラフは内閣府が発行している「南海トラフの巨大 地震建物被害・人的被害の被害想定項目及び手法の概要」という資料の抜粋です。
こちらのグラフは各年代の住宅が全壊する確率をしてしており、H12年以前の新耐震基準の建物は「緑色の▲印」そして「紫色の×印」のグラフとなっています。
旧耐震基準の建物は「茶色の●印」であり、S56年以前の旧耐震基準とH12年以前の新耐震基準の建物を比較すると倒壊する可能性が格段に低くなっていることがわかります。
H12年以前の新耐震基準の建物は震度6強から次第に倒壊・大破する家が増え、震度7となると約35%~55%の家が地震に耐えられず、大破・倒壊すると予測されています。
ちなみに現行の耐震基準「水色の×印」であっても震度7の地震がくると約20%の家は耐えられません。
震度7の地震はくるの?
大阪市にも震度7の地震が来ると予測されています。その地震は「上町断層帯地震」と言われるもので、大阪市広域で最大震度が7と予測されています。また、この上町断層帯地震の発生確率は、今後30年以内に2~3%と予測されています。
現在大阪、関西地域で最も警戒されている南海トラフ地震は、大阪市においては震度5強の地域が多く、最大震度6弱と予測されています。発生確率は今後30年以内に70%~80%という高い確率で予測されております。
- 新耐震基準の建物でも震度7には耐えられない可能性が大きい
- H12年以前の新耐震基準は「壁の量」が決められたが、「バランス」は考慮されていない
- H12年以前の新耐震基準は「金物」が入っていない住宅が多い
- 現行の耐震基準でも“ギリギリクリア”は倒壊する危険性がある
- 耐震補強工事では可能な限り評点1.5を目指していくことがおススメ